時は幕末 ――――――
小股潜り一行に依頼が一つ。
血の涙を流した、死に至る疾に臥した爾男は。
最早立ち上がる事も適わぬ躰で畳に頭を擦り付け乍、
――― 男、…翁は噎び泣いた。
薬代、にと貧窮極めた情無の金を、握り締めながら。
枯れた枝のよな腕を伸ばし、乾いた涙を流しながら
――― 如何か、と。
「 私の娘は、お菊と申します。嶋原に、生活苦の為、売り飛ばし、遊女となったと聞きました。
然し、其の楼の主人様のお人柄が良く、我々はお菊とひとたび、文を交わす事が適ったので御座います。
菊、は優しい娘です。 娘を売り飛ばした私を責める事なぞしなかった。
それどころか、体調を崩した私を心配し、薬代迄代わって呉れる様な、そんな娘で御座います。
そ、そんな、娘が、彼の壬生浪に手籠めに、されたと…!!
壬生浪に、娘は手籠めにされ、凌辱され、き、菊は孕んでしまった、と聞きました。
私は、全てが終わった後に、主人から、聴いたのです。
菊は、菊を手籠めに為た、其の男の子を、孕んだ、と。
余りの動揺に、見世を休み、引籠っていた娘の心労は、如何なものでしたでせうか、
然し、菊も、一介の遊女。
神経をすり減らしながらも、ようやく割り切り、堕胎を決意した、と
だのに。 ッ、 だのに、彼の男は … !!
菊が孕んだとしり、更に菊を凌辱し、犯しながら菊を殺し、… 剰え 、!
腹の子すら、腹を切裂き、抉り出したのだと聞きました 、!!
ふ、復讐したいとは申しませぬ!! 唯、ただ、一矢を報いたい、!!
不幸を忘れ、新しい人生をそれでも歩もうとした娘を、畜生の様に殺した、
彼のっ、 … 獣にも劣る天響、雷弥に一矢を報いたいのです、!!
如何か、如何か、此の依頼を受けてくだされ、小股潜り様!!! 」
頭を擦り付けながら、土下座した男を、小股潜り等は唯静かに見下ろした。
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全ての始まり